MOTの最高責任者はCTOで、技術戦略を立案する責任者として戦略技術投資の意思決定者である。従って、MOT人材は、企業におけるCTOの候補者でもある。MOT人材を社内起業家として競争させ、チャレンジさせることは、CTOの候補を育成することにつながる。そして、最終的には、CTOのMOT能力によって企業の未来が大きく左右されるのである。
実際に、日本企業が実践している「自社型MOT人材」育成例をひとつ示そう。
衣料用・住宅用洗剤などの家庭用品で約40%のシェアを持つ花王は、99年に身体に脂肪のつきにくい食用油「健康エコナクッキングオイル」を発売して以来、新たな有望分野としてヘルスケア事業を強化している。
そのひとつが、2003年5月に発表した飲料「ヘルシア緑茶」。体脂肪を減らす効果があるとされるポリフェノールの一種である「茶カテキン」成分を高濃度で取り入れた点が特徴で、花王にとって初めての飲料品である。
花王は”飯の種”となる研究開発を一貫して重視してきた。正社員約5,700人のうち約1,700人が研究者という体制からもその姿勢がうかがえる。消費者の声に基づく市場への対応のうまさ以上に、基礎研究を軸にした市場創造力が競合品に打ち勝つ商品を生んでいる。
しかし、ニッチを開拓するのではなく、大きな市場でまったく新しい機能を打ち出して、新たな需要を開拓しているところに花王のすごさを感じる。エコナやヘルシアはその典型といえよう。
花王は、人材をとことん専門化すると同時に、研究も奨励している。「ヘルシア緑茶」も、歯磨き粉を担当してきた研究者が、口臭防止剤の開発にかかわったときに思いついたとのことである。
花王の後藤社長は、商品開発は「ひとりの天才よりも集団力だ」として、研究所では新商品を出した人だけが評価されるという風潮を作らず、地道に支えている人も同時に評価し、成果主義についての短絡的な考え方を戒めている。
花王には「テクノスクール」と呼ばれる研修制度がある。各工場の20歳代後半から40歳代前半までの有望な社員約20人を選んで、7ヶ月もの間、鍛え上げる。このプログラムには、若手・中堅社員が花王の色に染められていく、きめ細やかな仕掛けが盛り込まれている。
図表4.は、そのカリキュラムおよび内容であるが、まさに日本型MOT人材育成のための「自社型MOTプログラム」として大いに参考にしたい。
このテクノスクールが始まる前には、予備研修として「感動講座」という変わった講座も開く。各人に、これまで感動した体験を人前で話させるのであるが、初めは恥ずかしがったり、警戒している社員も、親や恩師との思い出などに感極まって、最後には話し手も聞き手も互いに涙を流すまでになるという。
毎年、約500万円を投資している教育の成果は確実に上がっており、ひとりの天才より集団の力を持ち味として、さまざまな課題に挑む中で「平凡の積み重ねが非凡を生む」花王独特のMOT人材が育成されている。
花王のMOT人材育成法は、まさに日本独自のやり方である「全員参加のモノづくり」「現場現物主義」が基本となっていることが大きな成果をあげている背景にある。つまり、MOTは「日本的(型)MOT」を目指さなければならないこと、さらに、それを、花王のように「自社型」に変えて実践することが重要である。単に、MOT人材の育成ということで、一部の有能な人材を大学院に入学させて学ばせるというやり方ではなく、全従業員が、自主的にMOTを理解し、全社的な空気として受け入れていくことが行われなければ、形だけのMOTに終わってしまうことを強調したい。
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